その歴史に自覚的であるがゆえに、リンダ・リンダズは自身のルーツにも誠実であり続けている。アメリカのレコード店アメーバ・ミュージックの名物YouTube企画「What’s In My Bag?」に出演した際、ベラがNetflixのドキュメンタリー・シリーズ『魂の解放:ラテンアメリカのロック史』を推薦していたことからも分かるように、彼女はラテンアメリカ音楽の歴史を強く意識している。本作に提供されたスペイン語楽曲「Yo Me Estreso」では、トラップ・コリード、ドゥランゲンセ、バンダといった新旧のメキシコ音楽をパンクの文脈で大胆に取り込み、温故知新と人種的多様性を併せ持つリンダ・リンダズならではの魅力が存分に発揮されている。さらにこの楽曲には、「替え歌の帝王」として知られるアル・ヤンコビックがアコーディオン奏者として参加し、ミュージックビデオにも出演している。彼はマフスの「Oh Nina」を子守唄として娘に歌っていたほどのファンであり、キム・シャタックの訃報に際しても深い敬意を表するコメントを残している。リンダ・リンダズがマフスの「Big Mouth」をカバーしていることも、そう考えれば自然な流れだろう。
また、ルシアがアコースティック・ギターで書いたというメロディアスな楽曲「All In My Head」では、作家オテッサ・モシュフェグの小説『My Year of Rest and Relaxation』の主人公の視点から歌詞が綴られ、ナラティヴ面での新たな地平が切り開かれている。誰もが共感しうる心の痛みや孤独が描かれつつも、「医者は私がお金を持っていると知っている」といったラインは、あくまで物語上の主人公の境遇として描かれており、その微妙な距離感が作品に奥行きを与えている。
「Lose Yourself」はブロンディの「Call Me」を彷彿とさせ、「Cartographers」ではエロイーズとミラの切ないハーモニーが響き、「Nothing Would Change」ではロネッツの「Be My Baby」を思わせるリズム・パターンが印象を残す。前作以上にキャッチーさを増した楽曲群は、10代でデビューを果たした兄弟姉妹バンド、レッド・クロスの姿とも重なり、リンダ・リンダズの長いキャリアを予感させる。
本作『No Obligation』は、リンダ・リンダズにとって明確な「第2章」の幕開けとなる作品だ。プロデュースは前作に続き、ルシアとミラの父でもあるカルロス・デ・ラ・ガルザが担当。過度な装飾を排し、メンバー自身の自主性とDIY精神を尊重したサウンド・プロダクションが貫かれている。老舗パンク・レーベルであるエピタフとの契約が、彼女たちの自由度をさらに高めていることも大きいだろう。
2022年春にデビュー・アルバム『Growing Up』をリリースした直後にはSUMMER SONIC 2022で初来日を果たし、2024年にはPUNKSPRINGへの出演に加えて東京・大阪での単独公演も開催。日本でもすっかりおなじみの存在となったリンダ・リンダズは、同年夏に公開されたピクサー映画『インサイド・ヘッド2』で「Growing Up」が使用され、まるでバンドの第1章の終わりを象徴するかのようなタイミングを迎えた。
そして現在、彼女たちはグリーン・デイの全米スタジアム・ツアーに帯同し、キャリア最長となるツアーを経験している。この旅を経て、次に日本に戻ってくるとき、さらに逞しく成長した姿を見せてくれるに違いない。ギター・ロック・バンドとしての確かな完成度と勢いを備えた『No Obligation』とともに、いまこそがリンダ・リンダズの全盛期なのである。